刺身マグロ業界最大手の東洋冷蔵(株)で、マグロを担当する小竹浩史鮪鰹担当役員補佐と、入社3年目の吉田澪さん、井上萌さんの3人は、10月10日のまぐろの日を前に、千葉・浦安市の鮮魚泉銀の店主、森田釣竿氏との座談会を行いました。 祖父の代からミナミマグロを看板商品とする同店で3代目の森田氏は、フィッシュロックバンド・漁港のボーカルとして音楽を通じた発信も行っています。互いのマグロ愛を語り合いながら、業界を盛り上げる術を探求しました。心を震わす森田釣竿氏(㊧から2番目)のフレーズに倣い「マグロ食え!コノヤロー!!!」と叫ぶ東洋冷蔵の小竹浩史鰹鮪担当役員補佐(㊨)、吉田澪さん(その㊧)、井上萌さん(㊧) マグロは『恩魚』―森田さんにとってマグロとは。 森田 小さい時からマグロで生活させてもらってきました。特に年末。1年間どんなに厳しくても、最後にマグロが上手に売れると、家族が一丸となれた。家族をつないでくれた。ツナだけに… そういう魚屋って全国でも多いと思う。恩人、いや恩魚かな。なくてはならない存在です。 小竹 1995年の入社から30年、今はマグロ全般を担当している私も、魚への愛や感謝、こだわりが目いっぱいあるつもりです。対面で積極的にお客さんへ声を掛け、魚のよさを伝えて魚食文化を広げている、森田さんの販売スタイルに共感するし、心を動かされます。 魚の代わりに伝える 森田 魚ってしゃべれない。だから代わりに伝える。そんな魚屋になりたいと思ってがんばっています。浦安は地方から引っ越してきた人の多い街。だから、その人の故郷から仕入れた魚とマッチングすると盛り上がる。人と魚をつなぐのが楽しいんですよ。 小竹 一船買い(遠洋マグロはえ縄船で漁獲された船内のマグロ全てを一括で仕入れる)にも通じたものがありますね。異なる漁場、時期、サイズ、魚種を、培ってきた選別能力で個性を見極め、顧客の好みを思いながら、用途に合わせて届ける。しゃべれないマグロに対するこだわりです。こうした経験があるからこそ、森田さんの発信力の凄さが分かります。 森田 1人でもいいから伝えていけるよう、発信はしないといけない。魚の命を預かったわけですし、獲ってくれた漁師さん、運送してくれる人。1尾のためにどれだけの人が関わったかを考えると、妥協はできません。 小竹 ただ、川上の遠洋マグロはえ縄業界では、乗組員不足や、コスト増に悩まされています。このままだと撤退する船も増えてしまう可能性があり、日本のマグロ文化が衰退してしまう危機感を抱いています。 現場の努力伝え、業界を底上げ―マグロ業界を発展させるためには、どうしたらよいでしょうか。 森田 量販店がライバルではなく、みんなで盛り上げないと、「何が魚食王国だ」となってしまいます。量販店で街の魚売り場の雰囲気がつくれたら嬉しいですね。 小竹 マグロに関しては、漁業者に「また次も漁に出よう」と思ってもらうため、末端の方々に「マグロの魅力や価値を上げ、なぜこの魚はこの価格になるか」の背景を理解してもらう必要があります。今後もマグロを扱うためにも、販売する私たちが消費者に説明する使命があります。 森田 そのためにも、現場を知っている東洋冷蔵さんの言葉が重要になります。もっと底上げできるんじゃないでしょうか。残念ながら私がマグロの情報を収集するのは、仲買人との対話が主です。その先に居る生産者の方々の努力は、イメージするしかないのです。 小竹 でしたらぜひ、遠洋船の陸揚げを見に来てください。養殖現場では命をいただく場面から紹介できます。森田さんに現場を見て、発信をしてもらいたい。もちろん私たちもそこで、マグロ業界を底上げするヒントを学び、取り入れさせてもらいます。東洋冷蔵に蓄積された知識と経験で、社会貢献をさせていただきたいです。 【後編に続く】 《同日の座談会は、東洋冷蔵の公式noteでも発信しています。》